

2019年04月30日 (火) | 編集 |
咲-Saki-の二次創作SSです。
二条泉視点。
貯めたお小遣いで吉野に一人旅したその日、
フリフリな衣装を着た少女と出会った。
明日から小学6年生になる、春休み最終日のこと。
「どうしたん?」
不安げな顔で歩くその子のことが気になって、
つい声をかける。
彼女は一瞬、身体をびくつかせたが、
たどたどしい口調で事情を話してくれた。
なんでも、つい最近ここに引っ越してきたらしく、
近所を散策しているうちに、
親とはぐれて迷子になったとのこと。
「そっか。まあ、親御さんも探してるやろうし、
下手に動き回るより、ここで待ってた方がいいと思う」
「それも、そうですね。あなたは、地元の方ですか?」
「いや、大阪から来てん。
明日からは最上級生やし、気合いを入れるために、
ちょっと冒険してみようかなと思って。
せっかくやから、話し相手くらいにはなったるで」
「ご親切に、ありがとうございます。
最上級生ということは、6年生ですか?
私も同じなんです」
「そうなんや。それにしては立派な……」
下品なことを言いそうになって、慌てて口をつぐむ。
「ま、まあ、それは置いといて、けど、そうやな、
話し相手っていうても、何を話せばいいんかな。
なんか好きなもんとか、趣味とか、ある?」
「好きなもの、ですか……。
強いて言えば、麻雀でしょうか」
「……麻雀やて?」
何気なく出てきたその単語を聞いて、私は眉をひそめた。
「偶然やな。私も少し、かじったことあんねん」
「そうなんですか、それは奇遇ですね」
「そや。ほんなら暇つぶしに、何切る問題出したるわ。
何切る問題って分かる?」
「はい。ツモ牌も含めて、
自分の手牌から何を切るべきかを選ぶ問題ですよね」
「そうそう、細かい説明はいらんな?
じゃあ、さっそくやけど、いくで!
私が出す問題は、これや!」














ドラ

「もちろん何を選んでもいいけど、
サービスとして、三択に絞ったるわ。
あんたなら、次の三つのうちから何を切る?」



「不正解なら、泥水の中にドボンやで!」
私は自信満々にまくしたてた。
きっとこの子は迷うと、そう信じて。
「

けれど、彼女は即答した。
そしてその答えに、私は言葉を失った。
まさにそれこそ、正解やったから。
この手牌は、ぱっと見た感じ、

鳴きや点数上昇を考えた場合、その一手を選ぶ人は少なくないはず。
けれど、「聴牌するための有効牌の枚数」だけを考えた場合、

たった1枚の差とはいえ、効率という点では、

もちろん状況次第で、切るべき牌は変わってくるけど、
何切る問題としては、

そしてその答えを、彼女が迷いもなく選べたことに、
戦慄を覚えないわけにはいかんかった。
「……あんた、ほんまに私と同い年か?」
自然とそんなつぶやきが漏れる。
仲のいい先輩に、この問題を出されたとき、
私はすぐに答えることができんかった。
その上、悩んだ末に出した答えが、

「どうかしましたか?」
「――なんでもない!」
思わず背を向け、私は駆けだした。
胸の中は、惨めな気持ちでいっぱいやった。
年上ならともかく、まさか同い年相手に、
それも出会ったばかりの女の子に、
力の差を見せつけられるなんて。
……いや、そうやない。
あの子のことが、憎いわけやない。
相手を勝手に「下」やと決めつけて、
侮った自分自身に腹が立ったんや。
立ち止まり、何度か深呼吸をする。
世界は広い。
そんなことは、分かっていたはず。
先輩たちは中学生になり、新しい場所で戦ってる。
自分だけが置いてけぼりになったような、
そんな気持ちを、ずっと抱いてた。
ここに来たのは、気合いを入れるためなんかやない。
焦りや苛立ち、最上級生になるというプレッシャー、
そんな色んな想いをリセットさせるために、
誰も知り合いのいない場所に逃げたかっただけ。
どこでもよかった。
吉野やなくてもよかった。
けれど、ここに来たおかげで、私は一人の少女に出会えた。
世界は広い。
もしかしたらあの子は、今の私より強いかもしれん。
けど、それでもいい。
そのことを知ることができただけでも、
ここに来た意味はあった。
踵を返し、私は再び駆けだした。
ほったらかしにしたことを、謝るために。
けれど、彼女の元に戻ったとき、
その側に大人がいることに気付く。
あの子の顔には、笑顔が浮かんでいる。
どうやら親と再会できたらしい。
「なあ、あんた!」
安心した私は、少し離れたところから、叫んだ。
「こっちで、友達できるとええな!」
その声に気付いた彼女は、深く頭を下げた。
私は軽く手を振り、その場を去る。
振り返ったときにはもう、彼女たちの姿は、
人混みの中に消えていた。
そのときになってようやく、
名前を聞きそびれていたことに気付く。
まあ、ええわ。
あの子が本当に強い打ち手なら、
いつかどこかで再会できるはず。
お互いに麻雀を続けていれば、
戦う機会は訪れるはずやから。
今はただ、そのときを楽しみにして、
日々、研磨に励むだけや。
さて、せっかくやし、
私も観光していこうかな。
見上げると、広がるのは満開の桜ばかり。
その鮮やかな光景は、
明るい未来を予感させてくれた。
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