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「咲-Saki-」二次創作 『二人』
2012年07月03日 (火) | 編集 |

園城寺怜の物語。



怜が目を開けると、真っ白な光景が視界に飛び込んできた。
それは、見知らぬはずの天井。
けれど、彼女にとっては見慣れた、病室の天井だ。

「怜、目ぇ覚めたんか!?」

しばしぼんやりしていると、すぐ側から馴染みのある声が響いてきた。
清水谷竜華。
同じ高校の麻雀部の、チームメイトだ。

「竜華、私、どうしたん?」

「『どうしたん?』やないよ。
 先鋒戦が終わった直後、その場で倒れたん、覚えてないん?
 それからすぐ、近くの病院に運んでもらって、三日も眠り続けててんで?」

「もう、そんなに経ってたんや。他のみんなは?」

「みんな、大阪に戻ったよ。
 監督と、それと ウチだけ無理言って、ここに残してもらっててん」

「……試合は? 試合は、どうなったん?」

尋ねると、竜華は目をそらしてうつむいた。

「――そっか。負けてもうたんやな。私がふがいなかったばっかりに」

「と、怜はなんも悪くないよ! あの宮永照相手に、必死に戦ってくれてたやん!
 負けたんは、怜の後をしっかり守りきれんかった、ウチらの責任や!」

怜のつぶやきに、彼女は即座に反論してきた。
その表情は今にも泣きそうで、
そんな顔を見せられたら、怜は何も言い返せなくなる。

「……そういうことにしておきますわ」

だから彼女はそう答えて、小さくため息をついた。
けれど、怜だって、本当は分かってる。
それでもやっぱり、自分の責任なんだ、と。
千里山のエースを任されていたのに、あの怪物を止められなかった。
それが全てではないと思うけど、一番大きな敗因は、結局、そこなんだろう、と。

「もう、これで終わりやねんな」

寝てる間に、高校最後の夏が、終わってしまった。
それがなんとも自分らしくて、怜はちょっとだけ笑いそうになる。
そんな彼女を、竜華は寂しそうな顔で見つめていた。



それから数日後。
馴染みの病院で検査を受けた後、怜は一人、通い慣れた道を歩いていた。

「怜!」

その背中に、誰かが声をかけてくる。
振り返ると、竜華が小走りにこちらへと向かってくるのが見えた。

「どやった?」

怜と並んだところで歩調を合わせながら、竜華は彼女に尋ねる。

「特に異常なし。むしろ今までより調子ええくらいやって」

「そっか、そりゃよかったなあ」

「そっちはどうやったん? 今日は部長の引き継ぎ、あったんやろ?」

「うん、こっちもつつがなく終了や。浩子やったらウチらが抜けた後も、
 なんとか上手いことやってくれるって信じてるし。
 ま、部長としてのウチの仕事は、もうこれでおしまいや」

「お疲れさん」

「どういたしまして」

お互いに軽く頭を下げ合うと、
二人はしばらく無言のまま、歩を進め続けた。

「……なあ、怜」

と、不意に竜華が口を開き、怜へと視線を向ける。

「あんた、これからのことは考えてるん?」

「これからって?」

「進路のことや。セーラは実業団からオファーが来てるって言うてた。
 怜にも推薦の話とか、来てるんやろ?」

「それは、うん……」

現時点までで、園城寺怜は三つの大学から、
推薦入学の話を持ちかけられていた。
どの大学も、関西では麻雀の強豪として知られているところだ。
彼女は千里山のエースを務めていたわけだから、
そういう話が来るのは当然と言えば当然のことではある。
しかし――。

「あんな、ウチもな」

うつむき、言葉を濁す怜には構わず、
竜華は笑顔で言葉を続けた。

「ウチも、怜と同じとこ、行こうかなと思うてんねん」
「え?」

その言葉に、怜は驚きの声を上げる。

「同じとこ行って、また一緒に、麻雀しようや。
 まあ、受験やら何やら、色々大変やと思うけど、
 そこはほら、なんとか気合でカバーや」

「……」

楽しげに語る竜華に、しかし怜は、
足を止め、無言で首を横に振った。

「怜?」

つられて竜華も立ち止まり、彼女に目をやる。

「言うたやろ。もう、これで終わりやねんなって」

そう言って彼女は腕を上げ、自分の手のひらを見つめる。

「まあ多分、あの試合で、無理しすぎたせいやろうな」

「あんた、何を……」

「はっきりとした根拠なんて無いけどな、理屈抜きに、分かんねん。
 私が持ってた、あの『力』が、もうどっかに消えてしまったって」

「え……?」

瞬間、竜華の顔から、表情が消えた。
その反応を予測していた怜は、わずかに口元を引き締める。
信じられないというより、信じたくない。
竜華はそう考えているのだと、怜は想像する。

「一巡先を見る。その力があったからこそ、私は千里山のエースになれた。
 でもその力は、もうあらへん。
 そんなら私は、前までと同様、
 三軍で無名の、どこにでもおる、ごく普通の高校生や。
 竜華と一緒に麻雀なんて、荷が重すぎるわ」

「……」

自嘲気味につぶやく彼女へ、竜華は静かに視線を向ける。
怜は目を伏せながら、小さく息を吐いた。

「失望したん? そら、そうやろな。
 力をなくした私なんて、なんの価値もあらへんし。
 まあ、私のことなんか気にせんと、竜華は竜華で、自分の進路を――」

「アホ!」

――唐突に、竜華の叫び声が、辺りに響き渡った。

「アホ! アホ、アホ! 怜のアホ!
 あんた、アホや! ほんまもんのアホや!」

通行人がチラチラとこちらに目を向けてくるが、
そんなことなどお構いなしに、竜華は怜をにらむように見つめる。
その目の端には涙が浮かんでおり、そんな彼女を見て、
怜は動揺を隠せなかった。

「な、なんや、いきなり。
 私、なんか怒らせるようなこと言うた?
 せやかて、そんな急に怒鳴らんでも……」

「はあ!? ウチがなんで怒ってるか、分かってないん!?
 怜は鈍いところあるなあと思うてたけど、
 ここまで鈍感やと、さすがにびっくりやわ!」

「な、なんで竜華にそこまで言われなあかんの?
 温厚な私でも、ちょっと腹立ってくるんやけど」

「なんでって、当たり前やん!
 ウチはな、あんたの『力』なんてどうでもええねん!
 そんなん、全然関係ない!
 あのとき、一緒に全国目指そうって言うたんはな、
 ただ単に、怜と一緒にいたかったからや!」

「…………あ」

その叫びを聞いた瞬間、怜は理解した。
自分が、どれほど愚かなのかということに。
なぜなら、今更になってようやく、彼女の想いに気付いたのだから。

「ウチの気持ちなんて、全然分かってへんかったんやろ?
 せやから、怜は鈍感なんや!
 アホ! 怜のアホ!」

「……そうやな。私はほんまにアホな女や」

泣きじゃくる竜華に、怜はそんな言葉をかけるしかない。
だけど、

「でもな、ちゃうねん。そうやない」

「え?」

続けた言葉に、彼女は顔を上げる。

「私にとっては、過ぎた願いやったもん。
 たかだか三軍の選手やった私のことを、
 竜華が想ってくれてるなんて、
 そんなん、夢のまた夢、夢物語やん。
 自分でも信じられるわけないやないか」

「怜……。もしかして、あんたも、ウチのことを……?」

「当たり前やん。あんたは私の人生を変えてくれた人やで?
 なんも思わん方がおかしいやろ。
 あんたこそ、ちょっと鈍感ちゃうか?」

「怜、怜……」

頬を染め、竜華は声を詰まらせる。
そんな彼女を見て、怜もまた、顔を赤らめた。
よくもまあ、こんなくさいセリフが自分の口から出てくるものだと、
恥ずかしさでいっぱいなのだ。

「――せやけどな、やっぱり竜華は、自分の行きたいとこ行った方がいい。
 竜華にも、推薦の話くらい来てるんやろ?」

「え、それは、うん、まあ、でも……」

「よし、ほんなら、決めたわ」

言葉を濁す彼女に、怜は顔を上げ、はっきりと言った。

「私が、竜華と同じ大学に行く。それで万事解決や!」

「ええっ!?」

びっくりした顔でこちらを見つめる竜華に、怜は澄ました表情で答える。

「推薦は全部断る。力をなくした私が入学しても、
 あちらさんにとっては迷惑なだけやし」

「でも、そんなん……」

「ええねん。推薦とか、力とか、そんなん、もう、どうでもええねん。
 大事なんは、私自身の気持ちや。
 その上でな、私は思ったんよ。
 私は私の意思で、竜華と同じ大学に行きたいって」

「……」

怜の言葉に、竜華は無言でうつむき、目元を押さえる。
しかしすぐに顔を上げると、彼女は無理やり作ったような笑みを浮かべた。

「ウチが推薦もらった大学、一般入試で受かるには、結構きっついで?」

「分かってるよ、それくらい。せやから竜華には、
 私専属の家庭教師をお願いしたいなと思うてるんやけど、
 あかんかな?」

「ううん、ええよ。お安い御用や。
 ウチに出来ることやったら、なんでもやったる。
 ウチも怜と同じとこ、行きたいし!」

こぼれる雫を隠そうともしないその笑顔に、
怜は胸が高鳴るのを感じずにはいられなかった。


一巡先を見る。
あの不思議な力は、怜の中から失われてしまった。
彼女の瞳に、未来の光景が映ることは二度とない。
そのことを彼女は、少しだけもったいないな、とは思ったものの、
でも、後悔はしていなかった。
自分の判断や選択は間違ってなかったと信じているし、
そもそもあんな力があったこと自体、不思議の塊だったわけだから、
ただ単に、元に戻っただけだ、と飄々としたものである。

元に戻った、と言えば、もうひとつ。
力を失って以来、怜の体調が、みるみるうちに回復していったのだ。
それはもう、彼女自身もびっくりするくらいに。
病弱体質だったあの頃が嘘のように、今ではすっかり健康そのものである。
担当医にも原因が分からないらしく、

「この世は不思議に満ちてるなあ」

と怜は人知れずつぶやく。
いずれにせよ、これでもう、彼女は本当にただの高校生だ。
事情を知らない人が、今の怜を見ても、
かつて彼女が千里山のエースを任されていただなんて、
まず信じてくれないだろう。

まるで夢のような日々だった、と怜は心の中で思う。
決して楽しいことばかりではなかったけれど、
それでも、彼女にとっては、どれも大切な思い出だ。
インハイを制覇できなかったのは、とても悔しくて、残念なことだ。
だけど、落ち込むことなんて何もない。
高校で日本一になれなかったのなら、
今度は大学で日本一を目指せばいい。
それでも無理なら、次は実業団だ。

人生はこれからも続いていく。
その道のりがどれほど険しくても、
一歩一歩、前へと進んでいこう。
諦めさえしなければ、きっとなんとかなる、と怜は思う。
なぜなら、彼女の隣には、
彼女のことを誰よりも理解してくれる、
最高のパートナーがいるのだから。

一人きりじゃない。
そう思えるだけで、怜の身体には力がみなぎってくる。
竜華と共に、怜はこれからも戦い続ける。
たとえその先に、何が待ち受けていたとしても。


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テーマ:咲-Saki-
ジャンル:アニメ・コミック
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