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「咲-Saki-」二次創作 『旅路』
2012年11月03日 (土) | 編集 |


阿知賀編のパロSSです。
キャラ崩壊、及びグロ注意。






夜も更けた頃、阿知賀女子学園の屋上にて。
肌寒い冬空の下、屋上の扉が、そっと開かれる。
姿を現したのは、鷺森灼だ。
コートを着込み、両手をポケットに入れて、
彼女は屋上の中ほどまで歩いていく。
灼がここにやってきたのは、一通のメールを受け取ったからだ。

「屋上で待っている」

それは、あまりにも不可解な内容だった。
差し出し人は、赤土晴絵。
灼にとって、誰よりも大切な人からのメール。
しかし、そのメールを読んだとき、
彼女の心は喜びよりも、驚きに支配されていた。

「……」

警戒の目で周囲を見回していた灼は、
ふと、動きを止め、その視線を一点に注ぐ。
屋上に設置されたイスの上に、大きなバッグが置かれていたのだ。
静かな足取りで、そのバッグの側まで近付いたとき、

「病院、行きましたか?」

不意に、間近から声が聞こえた。

「っ!?」

驚愕と共に振り返ると、そこには、見覚えのある人が立っていた。
小鍛治健夜。
数多くの記録を残してきた、プロ雀士である。

(いつから立っていたのだろう?)

灼の頭に浮かぶ、疑問と当惑。
そんな彼女の心境になど構わず、
健夜は顔をうつむかせながら、言葉を続けた。

「いいお医者さんなんですよ」

その異様な雰囲気に気圧されつつも、灼は口を開く。

「……行ってない」

「どうしてですか?」

「あなたに紹介してもらった病院なんか行かない……!」

ノドの奥から絞り出したような、灼の声。
その声を聞きながら、健夜は顔を上げる。
暗く、濁った瞳で、彼女は灼を見つめた。

「――ウソ、だからですよね?」

「えっ?」

「晴絵さんの気を引くために、
 赤ちゃんができたなんてウソついてたんですよね」

「違う!」

「何が違うんですか?」

「私は本当に――!」

左手でお腹をさすり、灼は悲痛な叫びを上げる。
そんな彼女の言葉をさえぎり、健夜は淡々と言葉を続けた。

「だったら、ちゃんと病院で診せられるはずですよね」

そのセリフに、灼は拳を握り締める。

「それに、鷺森さんが彼女の子どもを産めるわけ、ないじゃないですか」

「えっ?」

「晴絵さんの彼女は、私なんですから」

「あっ……」

そうなのだ。
様々な因縁に翻弄された二人も、紆余曲折を経た末に、
今では相思相愛の仲。
本来なら灼が割り込む余地なんて、あるはずがないのだ。

「そうでしょう?」

「……私だって」

しかし、「はいそうですか」と引き下がれる灼ではない。
彼女にだって、積み重ねてきた想いがあるからだ。

「私だって、ハルちゃんの彼女になりたかった!」

こぼれ出す涙と共に、灼の口から、想いが言葉となって溢れる。

「それだけなのに……。
 ずっと我慢してハルちゃんのしたいことしてあげたのに!
 なんで!? どうして!?」

感情を爆発させた灼を、健夜は無感情な瞳で見つめた。
そして、

「――晴絵さんなら」

目をそらさず、彼女は言葉を続ける。

「晴絵さんなら、そこにいますよ? 聞いてみたらどうですか?」

そう言って健夜は、バッグに目を向ける。

「……」

いぶかしく思いながらも、灼は恐る恐る、バッグを開けた。

「っ!?」

その瞬間、灼は目を見開き、後ずさり、
背中を折り曲げ、口元を抑える。

「ん、ぐ、う、んうぅっ……!」

吐き気をこらえるだけで精一杯だった。
何も考えることができない。できるはずがない。
だって、そこにあったのは――。

「鷺森さんの言ってること……」

混乱する灼を見下ろしながら、健夜は背中に回していた右手を、
ゆっくりと前に持ってくる。

「――っ!?」

「それ」を目にした灼は、驚きつつも、ゆっくりと立ち上がる。
健夜の手に握られているのは、血に塗れた包丁だった。

「本当かどうか、確かめさせてください」

「えっ」

静かな足取りで、一歩踏み出す健夜。
そんな彼女への、灼の反応は早かった。
コートのポケットの中に突っ込んでいた右手を、灼は素早く抜き出す。
その手には、隠し持っていた包丁が握られている。
こうなることは分かっていた。
だからこそ用意した、最後の手段。
――灼の包丁にも、赤黒い血がこびり付いているのは、
その凶器がつい先ほど、一人の人間の命を奪ったばかりだからだ。

赤土晴絵。

彼女は数刻前、痴情のもつれから、鷺森灼に殺害されたのである。
阿知賀のレジェンドとまで言われ、様々な伝説を作ってきた彼女も、
その最期は無残で、あっけないものだった。

(ハルちゃん……!)

自らの手で、最愛の人の生涯を終わらせた灼は、
健夜にも同じ運命をたどらせるため、
右手を高く振りかぶろうとする。
だが――。

「あっ……」

その手は健夜に払われ、握っていた包丁は、地へと落とされる。
瞳を揺らせる灼に、健夜は自らの包丁を走らせた。
鮮血が宙へと舞い、灼は言葉もなく、その場に崩れ落ちる。

「……」

物言わぬ骸と化した灼を見つめると、健夜はその場にしゃがみ込んだ。
そしてその肉体へ、行うべきことを行う。

「……やっぱり」

「処理」が済んだ後、健夜は立ち上がり、
灼の身体を見下ろしながら、つぶやく。

「ウソだったんじゃないですか」

まるで感情を失ったかのような表情で、彼女は言った。

「中に誰もいませんよ」



黄昏時の海。
夕日に向かって、一艘のボートが揺らいでいた。
船上では、小鍛治健夜が静かに寝そべっている。
その胸に「何か」を抱きかかえる彼女の表情は、
まるで全ての苦難から解放されたかのように、
すこやかだった。

「やっと、二人っきりですね。晴絵さん」



その後の、彼女の行方を知る者は誰もいない。
今も生きているのか、死んでいるのか、それさえも不明だ。
しかし、それまでの過程に何があろうとも、
そして行きつく先がどこであろうとも、
きっと彼女は幸せだったのだろう。
小鍛治健夜の人生に、心からの祝福を。
nice boat.


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テーマ:咲-Saki-
ジャンル:アニメ・コミック
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